オープンリールから始まった国産テープデッキの歴史。それは
カセットデッキの時代になり世界一の水準に達したと言えるでし
ょう。何より,本来,会話記録用程度にしか考えられていなかっ
たカセットテープをハイファイ録音に使えるほどの性能に引き上
げたのは,国産メーカーのテープデッキたちでしょう。
そんなテープデッキの名機,銘機を振り返ってみましょう。
国産テープデッキの水準を大きく引き上げ,世界をリードするまでにした立て役者として![]()
Nakamichi 1000ZXL
ナカミチをまず取り上げました。ナカミチは,Nakamichi1000によって,世界に先駆けて
カセットデッキの完全独立3ヘッドを実現し,その性能のすばらしさで世界をあっと言わせ
ました。その血統を引き継ぎ,カセットデッキの王者として君臨していたのが本機でした。
カセットテープにこれほどまでの情報量が入るのかというものすごい録音性能は圧倒的な
ものがありました。そのすごさのあまり,本機で録音したテープは,並のテープデッキでは
再生能力が追いつかず,飽和してしまって歪んでしまうのに驚いた記憶があります。とに
かくあまりにもすごい超弩級のカセットデッキでした。
ナカミチのデッキが続きますが,本機は,NAAC(ナーク)と呼ぶ再生アジマス自動調整機能を![]()
Nakamichi DRAGON
搭載し,優れた高域再生能力と安定したリバース再生を実現したデッキでした。ナカミチは伝統
的にテープとヘッドギャップの接触角度(アジマス)にこだわってきたメーカーでした。しかし,テ
ープデッキにとってアジマスが少しでも狂うと高域が再生不可能になり音がこもってしまうなど
重要なポイントであることは確かです。アジマスはデッキ同士の互換性の問題に大きく関わって
いました。上記の1000ZXLでは,録音ヘッドのアジマスを自動調整する仕組みになっていまし
たが,本機では,他のデッキで録音したテープであっても,再生しながら自動的に最適位置に
調整するというもので,他のデッキで録音したテープもきれいに再生できるのが重宝しました。
何より,1000ZXLで録音したテープをまともに再生できる数少ないデッキだったわけですから。
私も現在も所有し,現役で使用しています。アナログ録音ならではの,なめらかさを感じさせる
音は現在でも録音機として第1級のものだと思っています。
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Nakamichi CR−70
これも,ナカミチのデッキですが,1982年発売のDRAGON発売から3年後の1985年に発売
された高性能デッキです。DRAGONが自動アジマス調整以外は,ひたすらマニアックにマニュ
アル調整による録音を追求していたのに対し,性能を落とすことなく自動化を全面的に採用した
デッキでした。ナカミチは,1000シリーズ,700シリーズを除くと,マニュアル調整により使う人
の楽しみを追求していた感がありました。その意味では,他社並にマイコンを使った自動化を図
った本機は,少し変わり種だったのかも知れません。しかし,それにより,使い勝手は大きく向上
し,マニアでなくとも使える製品となりました。ナカミチが伝統的に追求してきたアジマスについて
は,逆にマニュアル調整を残し,他のデッキに対する広い適応性と使い手の音の好みを反映させ
るようにもなっていました。現在,私自身,本機も現役で使用しており,その使い勝手,優れた録
音性能には満足しています。DRAGONとは少し違った音の傾向を持ちますが,(どちらかという
とこちらの方が現在のデジタル録音機に近づいている)色づけの少ないすばらしい音を聴かせて
くれています。
ソニーは,オープンリールデッキの時代に,777の型番を持つ名機を作り上げていましたが,本![]()
SONY TC−K777ES
機はその栄光の777の番号を受け継いで開発され,1981年に発売されたTC−K777の2世
代目モデルです。ソニーのカセットデッキのトップモデルとしてこの型番は長く君臨することになり
ます。本機からドルビーCが搭載され,各部が改良されて完成度の高いモデルとなっていました。
その安定したメカニズムと録音性能はすばらしいものでした。この後TC−K777ESUに受け継
がれ,ロングランをした製品でもありました。
1982年,超高級カセットデッキの分野でC−1,C−2以来,しばらく沈黙を保っていたティアック![]()
TEAC Z−6000
が突然発売した超マニア向けの超弩級デッキでした。亜鉛ダイカストボディーのそのごつい外観と
これでもかと並んだスイッチ群,徹底したマニュアル調整を可能にした操作系,16.4kgにも及ぶ
重量等,ティアックがありったけのものを注ぎ込んだかのような製品でした。決して使いやすいとは
言えませんでしたが,使いこなしがいのある,マニア向けのデッキだったと記憶しています。音の方
も,その外観同様に低音の支えのしっかりしたどっしりとしたものでした。もう,これほどマニアックな
テープデッキはコンシューマー向けに出ることはないでしょう。
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AKAI GX−F91
テープデッキの分野では,ナカミチ,ソニー,ティアックと並んで定評のあったアカイが,1982年に
発売した高級カセットデッキでした。上記のティアックのZ−6000とは対照的に,マイコンによる自
動化を積極的に取り入れて使いやすさと音質の両立を徹底的に追及した未来的なデッキでした。
当時,私も個人的にとても気になっていたデッキで,洗練された使いやすさと安定した音に印象が
残っています。
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TRIO KX−880SR
トリオが1982年に発売したKX−880の2世代目モデルです。今まで挙げてきたデッキのような
超高級ではなく普及機に近い69,800という価格ですが,剛性の高いメカニズムを採用し,2ヘ
ッド,シングルキャプスタンのシンプルなメカニズムから優れた性能を発揮したデッキでした。派手
なスペックではなく実質本意に性能を追求していたため,きわめて安定した性能を持っていた名機
でした。
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TEAC X−2000R
今では,オープンリールデッキは,一部プロ用やマニアに使われている程度ですが,その性能は
やはりカセットデッキの及ぶところではありませんでいた。特に,1981年,カセットのハイポジシ
ョンに当たるEEポジション規格の始まりで,そのテープを使ったオープンリールデッキは,恐るべ
き性能を持っていました。このX−2000Rは,そんなオープンリールデッキの最後の名機とも言
える存在でしょう。4トラック19cm/s,9.5cm/sのリバース機で,19cm/s時には,30〜
40,000Hzに及ぶ恐るべきワイドレンジを誇りました。テープのランニングコストとカセットなどに
比べての使い勝手の悪さはありますが,録音機としての性能は,今見ても圧倒的なものがあると
思います。
パイオニアが1979年に発売した高級カセットデッキです。まず,見て分かるとおりそのデザインの![]()
PIONEER CT−A1
すばらしさが印象に残っています。,前面のふたを閉めたときの姿は,とてもカセットデッキだとは思
えないほどです。現在あったとしても古さを感じさせないと思います。デッキとしての性能も,外観
に劣らず優れたものでした。回転系はクォーツPLLによるD・Dを採用したデュアルキャプスタンで
固め,コンビネーション3ヘッドを採用し,録再アンプにも十分な余裕を持たせ,音質もしっかりした
ものでした。機能的にも,AUTO BLE SYSTEMという自動テープチューニングシステムを備え,
テープの特性に合わせた録音ができるようになっていました。パイオニアのデッキ史上でも最高級
機の1台だったと思います。
AIWAが1986年に発売していたカセットデッキです。AIWAは当時,数多くの多機能なカセット![]()
AIWA AD−WX99
デッキを発売していましたが,その中でもこれは極め付きの1台ではないかと思います。ダブル
リバースデッキになっている(オートリバースデッキが2台登載されたダブルデッキ)だけでなく,
片方のデッキメカは,5巻のカセットテープを一度に収納して,自由に選んで演奏できるオートソ
ーティングメカになっていました。現在のCDオートチェンジャーのように,5巻のカセットテープの
A面,B面から自由に選んで,15曲をプログラム演奏して,自由に編集することができたという
驚異的な多機能ダブルデッキでした。こんな機能を備えたデッキはこれ以降も他になかったと
思います。強烈な印象を残した1台です。
パイオニアが1992年当時(というからあまり古くない(?)に発売していた高級カセットデッキで![]()
PIONEER T−1100S
す。このころにはDAT,MDがすでに発売されており,録音機もデジタル時代を迎えていました。
その中で,アナログ録音機の良さを追求した高級デッキでした。そのキーポイントは,アナログな
らではのワイドレンジテクノロジーでした。デジタルと違い,理論上の高域限界がかなり高いとこ
ろにあることを生かし,メタルテープ使用時には,10Hz〜30kHzものワイドレンジを誇っていま
した。当時,このデッキを開発した際,技術者たちが,同じくアナログソースである,アナログレコ
ードの音を録音・再生して試聴をしていたということでした。この価格では考えられないほど充実
した作りのデッキで,カセットデッキの名機の一つと言えるのではないでしょうか。
ティアックが,1978年に発売した超高級カセットデッキ・3モーター3ヘッドデュアルキャプスタン![]()
TEAC C−1
は当然のこと,ダイカストを用いた頑丈な重量級シャーシなど,プロ用デッキのような仕様でした。
ツマミやメーターの質感など,高級感を感じさせすごくかっこいいデッキでした。システムアップが
できることを特徴とし,写真のように,dbxユニット,オーディオミキサーユニットなどを取り付けると
すごく格好いいのですが,すごく高価にもなりました。(ちなみに写真の仕様は40万円を超える
ことになります。詳しくは,C−1のページをご覧ください。
ローディーが1981年に発売した高級カセットデッキです。センダストとフェライトを複合した![]()
LO-D D−2200MB
コンビネーション3ヘッドをはじめ,各部に日立ならではの高度な総合技術が生かされている
感じで,当時,カセットデッキの購入を考えていた私自身,非常に惹かれていた1台でした。
ローディーはカセットデッキの分野で多くの技術を開発し,名機を生み出してきました。世界
初のコンビネーション3ヘッドカセットデッキD−4500(1973年),世界初の全自動コンピュ
ーターチューニングシステムを搭載したD−5500(1979年)など,画期的な名機がたくさんあ
りました。そんなローディーもオーディオの分野から撤退してしまい今は寂しい限りです。非常
に残念に感じるのは私だけでしょうか。
ラックスが,1983年に発売した高級カセットデッキです。「GTtrasnsport」と称した超精密で![]()
LUXMAN K−05
高剛性のダイキャストメカが特徴でした。ヘッドやメカニズムなど凝りに凝った設計でマニア向け
の高性能デッキとして登場した本機は,残念ながら人気機種にはなりませんでしたが,その中
身の確かさと音質はすばらしいものでした。このK−05はコンピュータチューニングシステムを
搭載した最高級機で,アナログメーターを搭載したそのデザインにも高級感が漂い,タダモノで
はない雰囲気を持ったデッキでした。弟機のK−04もフルマニュアルキャリブレーションを搭載
した高性能デッキで,基本性能のしっかりした高級デッキでした。ラックスはあまり知られては
いませんが,隠れた高級デッキ・メーカーだったと思います。
アイワが1988年に発売した高級カセットデッキ。AMTSというカセットハーフの振動を抑え込む![]()
EXCELIA XK−009
機能をはじめ,頑丈な亜鉛ダイキャスト製のヘッドブロック,PC-OCC巻線の3ヘッド構成など,
音質重視の高性能デッキでした。ノイズリダクションもdbxやドルビーHXプロなどフル装備で,使
いこなしがいのあるオーソドックスな高級デッキでした。
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SONY TC−K88ソニーが1979年に発売した水平型メカ採用の高級カセットデッキ。現在のCDプレーヤーのような
形のリニアスケーティング方式と液晶表示のレベルメーターがとても未来的でかっこいいデッキで
した。10万円以上する高級デッキで,とても当時,学生の私には手が届く代物ではなく,よくお店
で憧れの目で眺めていたものでした。
オーレックスが1979年に発売した中級カセットデッキ。オーレックス独自の高性能NRシステム![]()
Aurex PC-X60AD
アドレスを搭載した初めての手が届く範囲にある中級機として登場し,テレビCMまで流されま
した。当時ほとんどの人が,このデッキによってアドレスの存在を知ったのではないでしょうか。
オーレックスのアドレスにかける執念はすさまじく,これ以降も多くのアドレスデッキを発売しま
すが,そのきっかけとなった1台だったと思います。私も,このデッキでアドレスを知り,それから
後,自らも別のアドレスデッキのユーザーとなったのでした。
アカイが1983年に発売した高級カセットデッキ。録再オートリバースで3ヘッドを実現したデッ![]()
AKAI GX-R99
キで,走行系も,オートリバースながらデュアルキャプスタン方式を採用して,ワンウェイ機に
負けない走行性と録再性能を実現していました。カセットデッキ第1号でオートリバース機能を
採用し,世界で初めて赤外線式のクイックリバース方式のデッキを発売し,リバースデッキをリ
ードしてきたという自負のあるアカイの執念が感じられる1台でした。
ティアックが1984年に発売したオートリバースデッキ。前年にアカイから発売された3ヘッドオート![]()
TEAC R-999X
リバース機GX-R99に刺激されたかどうかは分かりませんが,3ヘッド・4モーターDDメカニズム
によるオートリバース,dbx搭載など,ティアックの高度な技術を感じさせられた高級デッキでした。
ティアックの歴史,いやオートリバースデッキの歴史の中でも最高レベルにあるデッキではなかった
かと思います。まさにティアックの執念の作品だったと思います。
ナカミチが,1983年に発売した録再オートリバースデッキ。それまでのDRAGONが再生オートリ![]()
Nakamichi RX-505
バースのみだったのに対し,3ヘッド・デュアルキャプスタンで録再オートリバースを実現した画期
的な1台でした。ワンウェイの3ヘッド・デュアルキャプスタンメカニズムをそのまま生かすために,
カセットハーフそのものを反転させるというメカニズムは,一見奇抜ですが,モーターの反転も必要
とせず,ある意味で正攻法だったと思います。一般的に広く認知はされませんでしたが,隠れた名
機だったと思っています。
※ここに掲載された写真は,各製品のカタログからの抜粋で,その版権・著作権
等は,各オーディオメーカーにあります。したがって,これらの写真を無断で転載
等することは,法律で禁じられている行為ですのでご注意ください。
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